ユーロモニターインターナショナルは「2025年世界の消費者トレンド」を発表し、異なる世代の消費者層が新しい商機を生み出し、ビジネス・ダイナミクスにどのような影響をもたらしているか、そして企業が変化し続ける消費者習慣にどのように適応しているかを明らかにした。本レポートで発表された5つの世界の消費者トレンドのうち、「健康寿命へのこだわり(Healthspan Plans)」と「賢い消費(Wiser Wallets)」は食品・飲料業界に特に大きな影響を与えている。
健康寿命へのこだわり(Healthspan Plans)
人々は長生きをすべく、齢を重ねた将来の自身のコンディションを考慮し、今現在から行動を変化させている。目標は「より長く、より健康的に生きる」ことだ。実際に、ユーロモニターインターナショナル「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2024年1月~2月実施)」(n=40,236)においても、世界の消費者の52%が、今後5年間は今よりも健康でいられると回答した。
ユーロモニターインターナショナルは、この消費者トレンドを「健康寿命へのこだわり(Healthspan Plans)」と名付けた。今日の消費者は、単に長生きしたい(Lifespan)だけでなく、より健康に長生きしたい(Healthspan)と考えている。 この健康に長生きしたいという願望は、消費者の商品選択にも影響を与えており、人々はライフステージに応じて自身の健康状況を調べ理解し、その症状を緩和、改善するための製品やサービスを積極的に探している。
この傾向は、急速に高齢化が進むアジアの消費者市場にとって特に重要である。ユーロモニターインターナショナルの国・消費者に関するデータベース「Passport エコノミー・アンド・コンシューマー」によると、アジア地域はすでに65歳以上の人口が世界で最も多く、65歳以上の人口は2024年から2040年までにさらに69%増加すると予想されている。 大きな成長ポテンシャルを見込み、食品・飲料業界では既に多くの企業が、アジアにおけるヘルシーエイジング(健康的な高齢化)に対する消費者ニーズの高まりに対応し始めている。例えば、世界有数の乳製品メーカーであるダノンは、中国で40歳以上の消費者をターゲットにした粉ミルク製品「Ganmai」ブランドを展開している。このブランド名は、中国語で一歩踏み出す勇気を意味し、年齢を重ねても、新しいことに挑戦し、受け入れていこうというポジティブなメッセージが込められている。
弊社データベースPassportより
この「健康寿命へのこだわり」トレンドの成長機会は、従来の健康カテゴリー以外にも存在する。例えば、アジアにおいても徐々に普及しつつあるパーソナライズド・ニュートリションだ。日本の大手食品メーカーの一つであるカルビーは、ヘルステック企業であるMetagen社およびCykinso社との提携により、2023年に「Body Granola」と呼ばれるサブスクリプションサービスを開始した。このサブスクリプションサービスを通じ、消費者は、自身の腸内環境に合わせてパーソナライズされたミューズリーやグラノーラを受け取ることができる。 同じく日本の大手乳業メーカー明治も、腸内タイプ別におすすめの素材を配合した商品を提供するパーソナルケアサービス「Inner Garden」の提供を2024年に開始した。
腸内細菌検査やAIのようなテクノロジーの進展により、腸内環境やストレスレベルなど、様々な健康に関わる指標を容易かつ正確に計測できるようになる中、企業にとっては、自社または戦略的パートナーシップのいずれかを通じて、パーソナライズされたデータ主導型のソリューションを消費者に提供することが、2025年以降の世の中で成功を掴むための鍵となるであろう。
賢い消費(Wiser Wallets)
2025年の世界のインフレ率は4.2%にまで低下することが予想されるものの、ユーロモニターインターナショナルが実施した消費者サーベイ調査「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2024年1月~2月実施)」(n=40,236)によると、世界の消費者の72%は、依然として日用品の価格上昇を懸念しており、44%の消費者は経済的な不安を感じていると回答している。長引く景気の先行き不透明感により、一時的かと思われた節約志向は、もはや現在の消費者行動に根付き、ユーロモニターインターナショナルが賢い消費(Wiser Wallets)と称するする新たな消費習慣を生み出した。
今日の消費者は、2023年に見られたように、価格の安さのみが必ずしも購入の動機とはならない。購買決定はより戦略的で意図的なものになっている。人々は、現在のニーズと将来のニーズの両方の観点から、自分の優先順位と照らし合わせて購入する商品の価値を比較検討している。実際に、前述の「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ」によると、世界の消費者の57%が商品やサービスを幅広くリサーチしており、衝動買いをよくすると答えたのはわずか18%にとどまった。
近年、消費財プライベートブランドの多くが、大手ブランドをしのぐ大きな小売売上増を達成しているが、2024年は、プレミアム・ラガーのようないくつかの製品カテゴリーにおいては、プレミアムブランドもまた、数量ベースで売上が好調に推移した。これも価格の安さのみが、必ずしも購入の動機とはならないこと、すなわち「賢い消費(Wiser Wallets)」を示していると言えよう。
弊社データベースPassportより
それでは、アジアの賢い消費者たちにとって、重要な購買決定要素は何なのか。「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ(2024年1月~2月実施)」によれば、アジアの消費者がより高い金額を支払っても構わないと考える飲食料品の特徴として、「健康・栄養特性(オメガ3など)」、「ナチュラル」、「美味しさ」が上位3位にランクインした。
ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイより
今後、ブランドがこのトレンドから利益を得るためには、こうした消費者ニーズを捉え、明確な付加価値を持つ商品を提供する必要がある。しかしこれは必ずしも新商品・サービスである必要はない。ユーロモニターインターナショナルが有識者を対象に実施したサーベイ調査「ボイス・オブ・ザ・インダストリーサーベイ(2024年9月実施)」(n=819)によると、59%の業界主要企業関係者が、「今後5年間で成長を促進するために既存の商品やサービスのポートフォリオを改善する予定だ」と回答している。既存のブランドポートフォリオを活用した成功事例のひとつに、ロッテの「プレミアムガーナ」があげられる。同社は、韓国と日本を代表するチョコレートブランドである「ガーナ」の既存ブランドを拡大し、2021年に日本、その後韓国で、チョコレート専門店のような味を提供する手頃なプレミアムをコンセプトとした「プレミアムガーナ」を発売した。従来の製品よりも高価格に設定しているが、アジアの消費者がより高いお金を支払っても良いと思う飲食料品の特徴の第3位にランクした「美味しさ」を求める消費者のニーズに応えることに成功し、同商品は好調に推移している。
アジアの消費者も、世界の他地域の消費者たちと同様に、商品を購入する前に下調べを入念に行い、失敗をしたくないという気持ちが強くなっている。ロングセラーブランドなどは、消費者が味や品質への信頼を強く持っているため、プレミアムガーナの例のように、既存ブランドの知名度を生かすなどの戦略が効果的だ。また、新ブランドにおいては、消費者が下調べをして納得できるように、商品に関する多くの情報をウェブサイトやソーシャルメディアを通じて伝えていくことが重要だ。
以上、当社が予測した「2025年世界の消費者トレンド」のうち、食品・飲料業界に特に影響度が高い2つのトレンドに絞って紹介した。本トレンドの詳細および残る3つのトレンドについては、レポートを参照にされたい。
ご関心を持たれた方は、お気軽にユーロモニター東京オフィスまでお問い合わせください。